• 夏樹陽子

    「13」
  • 熱いささやき

    熱いささやき

    しとしと雨がふる 夜なら尚のことしみじみ話すより もえてとけたい熱いためいき あなたのためなの汗ばむささやき あげるわ冷えたワインは コロンの香りねおとなの愛には お似合い好き 好き みつめてゝ好き 好き だきしめて好き 好き このまゝで……ゆらゆらゆれている 二人のシルエット外すわイヤリング 邪魔になるだけ熱いささや...
  • 雨がもえている

    雨がもえている

    あゝゝ……雨だね雨がもえているしとしともえている昔がもえているしとしともえているおんなひとりが死んだまゝ生きておんなひとりが生きたまゝ死んで時が流れて雨になったのさあゝゝ……雨だねよこはまは 雨だね黒船、ガス灯、異人さん、文明開化のよこはま村は、それはもう、にぎわっていたものでございました。でも……その異人さんに囲われ...
  • 風のめりけん桟橋

    風のめりけん桟橋

    夢からさめればガス灯が花を咲かせる暗い空異人祭りにもまれて酔ってどうせ異人になれもせずらしゃめん衣装が風に鳴るひゅるる ひゅるる ひゅるるる……肌が寒いよ めりけん桟橋かもめのむくろを抱きしめりゃ染めた髪の毛風に散るだいておくれよ あたいもむくろどうせこの世の つまはじきらしゃめん衣裳がまといつくひゅるる ひゅるる ひ...
  • 居留地三十九番地

    居留地三十九番地

    居留地はネ、書生さん、よこはまにあってもよこはまじゃないんだよ………。あたいもネ、にほんの女でも、にほんの女じゃないんだよ。あたいに恋しちゃいけないよあたいをたずねちゃいけないよ居留地三十九番地あたいのくさりが見えるだろ末に望みを抱く人はあたいを抱いてはいけないよごらんよ………このかおをらしゃめん化粧は 毒の花また来た...
  • ギオロン節

    ギオロン節

    みだれ髪くしけずる淋しい音色ギオロンのいつかおぼえた弓をひくむらさき絵の具で刷(は)いたよなおんな心でございますおんな心でございます白い胸つやぼくろ小指でなぜるギオロンはおえつ混りのむせび泣き抱かれて燃えない女でも燃える昔がございます燃える昔がございますどうしてだか分からない………。あたいに優しい昔なんかないはずなのに...
  • 暗い火

    暗い火

    どうして………どうして身体がもえて行くの。心はつめたく冷えきっているのにさ。消してよォ………暗い暗い火だよ。もえる もえるあたいのどこかでもえる暗い暗い暗い 地獄の火みえる みえるあたいのどこかにみえる暗い暗い暗い さだめの火あゝゝ……あー あー あー あー ……けもの けものあたいはおろかなけもの暗い暗い暗い 地獄み...
  • けもの雨

    けもの雨

    死んでもいゝんだよ雨にうたれてさ………この手をはなさずに抱きあったまゝならあんたが望みを捨てたからさあたいのいのちも捨てたっていゝあゝ なけなしのいのち雨ん中 雨ん中 おわれて逃げるのがこんなに こんなに楽しいなんて………雨よもっとふっとくれ……ふたりの足跡を消しとくれ……あたいの化粧を流しとくれ……生きてもいゝんだよ...
  • 黄昏らしゃめん通り

    黄昏らしゃめん通り

    からからと からからと 馬車が行くらしゃめん らしゃめん 馬車が行くからからと からからと 馬車道に売られた女の 馬車が行くつぶて投げなよ あたいの胸に傷あとつけなよ 赤い雨の糸いたくはないんだよ…… いたくはないんだよ……泪も枯れたのさからからと からからと 馬車が行くらしゃめん らしゃめん 馬車が行くからからと か...
  • びいどろ草紙

    びいどろ草紙

    異人屋敷に秋が来るひとつおぼえのメリケン節をくり返す くり返す あゝくり返す酔いざめ心地で一枚めくったびいどろ草紙に あたいが見える凍った心に 身体ひとつが身体ひとつが もえて行く異人屋敷に風が吹く波止場真近の黒船あかりゆらゆらと ゆらゆらとあゝゆらゆらとらんたんともして一枚めくったびいどろ草紙にあたいが見えるギヤマン...
  • ミッド・ナイト・コール

    ミッド・ナイト・コール

    ミッド・ナイト・コールミッド・ナイト・コールミッド・ナイト・コールミッド・ナイト。コール別れまぎわに あなたが噛んだ右の耳たぶ 切なくうずく冷えたグラスを 頬によせればあなたの吐息が きこえて来るわたかゞ都会の 夜のふれあいだからお互い わかれわかれに暮しているのに あゝゝ……濡れた小指が ナンバーをおすわミッド・ナイ...
  • 夢のまた夢

    夢のまた夢

    あの人は……。捕えられて……今ごろはひとにぎりの灰。あたいもいずれ、そうなるさだめ。いゝさ……どうせ人じゃない。らしゃめんじゃないか……はははは。夢を………夢をみたよな気がしたよ潮の………潮の匂いがしていたよよこはま まぼろし 夢まくらおんなは泪で………紅まくら夢の………夢のまた夢 人の世はどうせ……どうせ暗がり夜つゞ...
  • よこはまメランコリー

    よこはまメランコリー

    月日の流れはうたかたの夢。他人の夢に関(かゝ)わる事なく、人は生きて参ります。それでもこの町には今も……どこかで女のしのび泣き。本牧裏通り 灰色かもめ雨でもないのに 何を泣く酒場は早終(はやじま)い 酔いどれ女あかりを消したら すゝり泣くだれが悪いと言うのじゃないがアメリカ名前のあの男………もう帰らない、そうさよこはま...
  • おぼろ橋から

    生れも育ちも暗がりで………。いゝ思い出など一つもないって言うのに、十三か十四か………。そんな年頃のあたいが見える日もあるんですよ。フランス山は うすずみ色で行ったり来たりのくらい橋からめた指を噛みあってしたたる したたる いたみに泣いたあの日の二人はどこへ行った見えているのかいないのかおぼろ おぼろ おぼろ………おぼろ...